○スズキ目イサキ科ヒゲダイ属
ヒゲダイ (Hapalogenys sennin)
分布
日本固有種で、福島県〜九州南岸にかけての太平洋沿岸、瀬戸内海に分布しています。
また、所々ではありますが福岡や長崎、熊本など、山形県以南の日本海・東シナ海沿岸にも生息しています。
特徴
全長50センチ前後になり、なんと言っても真っ先に目につくのは名前にもなっているヒゲの部分ですよね!
この下顎の肉質のヒゲは皮が発達したもので感覚器になっており、このヒゲはヒゲダイ属の仲間の中で最も長いです。
また、前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の縁は鋸歯状(きょしじょう)になっており、成魚は暗褐色の体に不明瞭な2本の黒褐色の斜帯があるのも大きな特徴です!
一方幼魚の頃は体が真っ黒で2本の黒帯はなく、背鰭・臀鰭軟条部(しりびれなんじょうぶ)、尾鰭は透明になっています。
少し似た仲間にヒゲソリダイがいますが、ヒゲソリダイは模様がはっきりとしており体色も銀色で、背鰭・臀鰭・尾鰭は黄色いので容易に見分けることができます!
イサキの仲間ということもあって背鰭の棘条は硬く鋭いので調理する際には一応注意が必要です。
元々ヒゲソリダイと混同されることが多く、図鑑などの写真も逆に記載されたりしていたが2005年に元々使われていた学名が誤りであることが分かり、新種記載されました。
ヒゲのような感覚器は肉質でプルプルしています!意外と触り心地がいいんです!
背鰭の棘条はイサキ同様鋭くて丈夫!
やや前向きな第1棘は小さくて分かりにくいので注意が必要です!
背鰭は別々に見えますが中央の凹んでいる所で繋がっており、棘条部と軟条部で一つになっています。
ちなみに背鰭の鰭条数は11棘17軟条です。
目は真っ暗になっていますが生きている時は下の写真のように↓↓瞳がはっきりと見えます。
雫型の黒い瞳を取り囲むようにその周りの虹彩だけ黄色く、残りはやや青みのあるグレーですね!
それにしてもヒゲが凄い(笑)
尾鰭は扇のような形をしており、軟条は2度分岐しています。
分岐している軟条は根本から数えます。
この場合軟条数は16です。
腹鰭の軟条も途中で分岐しています。
臀鰭の第2棘は太く、特に目立ちます。
胸鰭はthe魚って感じのオーソドックスな形をしており、ちょい硬めです。
名前の由来
下顎の感覚器がヒゲを生やしているように見えることからこの名がつきました!
このヒゲを生やしている様子が仙人に見えることから学名の種小名にはsenninという単語が使われており、世界共通の名前に使用されていることからとにかくヒゲに注目されたおさかなということが分かりますね!
ヒゲを生やした魚なんてダンディでインパクトありますもんね(笑)
ちなみに属名の方のHapalogenysにはギリシア語で柔らかいという意味があり、ヒゲダイの下顎のヒゲが肉質で柔らかいことからきています。
また、和歌山県ではトトモリと呼ばれていますが、この呼び方はヒゲダイとヒゲソリダイが混同されていた頃からあるため、今でも両種に対して使われています。
他にも地方によってコウコダイやトモシゲなどと呼ばれています。
生態
・生活環境
成魚は水深5〜50メートル程の岩礁域や砂底で生活しています。
・ヒゲは餌を探すためのセンサー
ヒゲ状の感覚器は匂いや味を感じ取ることができ、このヒゲを地雷探知機のように海底や岩の隙間に近づけることでゴカイなどの多毛類やカニなどの甲殻類を探し当てて捕食します!
・小さい頃はかくれんぼ名人
幼魚は表層や浅瀬の海底で見られ、ゆらゆらと波に揺られて漂いながら泳ぐことで一緒に流れている枯れ葉などに擬態し、大型の魚や鳥から身を守っています。
幼魚は体が真っ黒で、本当にじっとしているので漁港などで見かけると上手い具合に周囲の浮いている海藻や枯れ葉に紛れていて意外と分からないんです!
表層や海底で小さな魚が泳いでいると鳥や他の生き物の格好の餌になってしまうので、擬態することで身を隠しているんですね!賢い戦略です!
ただ、海底のアオサに紛れていることもあり、その場合は緑色の景色の中に黒い何かがいるので逆に目立ってたりもします。
・寿命
ヒゲダイはそこそこ長生きするおさかなで、飼育下では25年程生きるそうです。
水族館ではヒゲソリダイと同時に展示されていることもあるので機会があれば見比べてみてください!
・繁殖
産卵期は夏です。
今のところヒゲダイ属で産卵方法がわかっているのはヒゲソリダイとセトダイの2種のみのようで、ヒゲダイの産卵場所などはまだわかっていないようです。
同じヒゲダイ属2種が、バラバラになって海中を漂う分離浮性卵(ぶんりふせいらん)を表層付近で産むので、ヒゲダイも同じように表層付近で分離浮性卵を産むのかもしれません。
魚食
味:★★★★☆(非常に美味しい)
身の種類:白身
選び方は体色の黒みが強く体の張りが強いもの、目が澄んでいるものが良いですよ!
鰓が見られる状態であれば鰓の色が鮮やかな赤色をしているものが良いです!
ヒゲダイは「鍋の底まで他の食材を割るようにして余すことなく食べるほど美味い」的なニュアンスからナベワリと呼ばれるほどの味の持ち主なんです!
旬は非常に長く、秋から初夏にかけて、つまり夏以外ならいつでも美味しく食べることができるおさかななんです!
夏はヒゲダイの産卵期のため産卵後でエネルギーを使い果たしたヒゲダイは味が落ちると言われています。
個人的に最も美味しい食べ方はおそらく刺身です!
ヒゲダイの身は甘みがあり、あっさりとした白身で非常に絶品ですよ!
薄ピンク色の身は食欲をそそります
刺身以外でも塩焼きやバター焼き、煮付けにしても美味しい魚で、市場に出回ることがほとんどないためあまり人の目につきませんが、なかなか万能なおさかなだと思います。
鍋は食べたことがないので分かりませんが、ナベワリと呼ばれるくらいなのできっと美味しいはずです!
スーパーで見かけることはまずなく、その味の良さと漁獲量の少なさからか大きな個体は東京の築地など場所によっては1キロ2000程の値段になるそうです!高級魚ですね!
しかしその一方で30センチほどの個体は道の駅なら1尾400円前後で買うことができるので買うならこちらの方が手を出しやすいかもしれません。値段の差が恐ろしい、、。
市場は扱う魚種や鮮度は抜群ですがスーパーなどに比べると値が張りますよね。
基本的にスーパーで見ることはないのでヒゲダイを探すならマニアックな魚を扱うことの多い、魚屋や道の駅などがおすすめです!