○ヌタウナギ目ヌタウナギ科ヌタウナギ属
ヌタウナギ(Eptatretus burgeri)
- 1 分布
- 2 特徴
- 3 名前の由来
- 4 生態
- 4.1 ・エイリアンのような見た目には理由がある
- 4.2 ・繁殖
- 4.3 ヌタウナギの産卵期は8〜10月で、その時期になると浅場から深場に向かって移動して産卵を行います。 ヌタウナギの卵は細長いラグビーボールのような形をしており、一度に18〜30個ほど産みます。
- 4.4 ・過酷な環境をネバネバで生き抜く
- 4.5 ・意外と器用なヌタウナギ そんな厄介とも思われるヌタウナギの粘液なのですが、やはりヌタウナギにとっても鬱陶しいと思うこともあるようで、粘液を出しすぎて自分に纏わりついた時には硬骨のない柔軟な体を器用に固結びして、結び目を解く動作で纏わりついた粘液を少しづつずらしていって落とすことができます! 自分の体を固結びするなんてどういうこと?となりますが、言葉通りの意味で器用にくねくね動いてほんとに結び目を作っちゃうんです!! この技は敵に噛みつかれたりした時も応用するようで、自分の体を相手の口から少しづつずらして逃げるようです。
- 4.6 ・実は私たちの生活にも役立つヌタウナギ
- 5 魚食
分布
宮城県仙台湾〜九州南岸、秋田県〜長崎県野母崎(のもざき)・五島列島、瀬戸内海、東シナ海大陸棚、朝鮮半島南岸・東岸、台湾などに生息しており、水深5〜740メートルで見られます。
特徴
全長60センチ程に成長し、深海にも生息する魚なだけあって、不思議な特徴をいくつも併せ持ったいろんな意味で癖の強いおさかなです!
体は褐色で背側に皮褶(ひしゅう)という白っぽい皮があり口ひげは3対、鰓孔が6個それぞれ離れていることで他の仲間や非常によく似たクロヌタウナギやムラサキヌタウナギと見分けることができます。
口ひげは3対
背中の皮は白くなっており、白いラインがあるようにも見える
鰓孔はお腹側にある。6つ目の孔は吸い込んだ泥などを排出する役割もある
見た目はウナギのように細長く、名前にもウナギと付いてはいますがウナギとは全く違うグループのおさかなで、そもそも通常の魚類とは体の作りが大きく異なります。
まず、皆さんがよく見る魚は大きく分けてマダイやマアジなどの硬骨を持った硬骨魚類と、サメやエイなどの硬骨を一切持たず軟骨のみで体を形成している軟骨魚類の2種類がいるかと思います。
この2種は上顎と下顎を持っているためまとめて顎口類(顎口上綱)と呼ばれており、一般的な意見では硬骨魚類よりも軟骨魚類の方が原始的な種類とされています。
しかし、ヌタウナギは顎を持っておらず、口が円形になっているため無顎類(無顎口上綱)、円口類という種類に分類されています!
この無顎類にはヌタウナギの他にヤツメウナギが属しており、2種類とも硬骨魚類よりも原始的とされる軟骨魚類よりもさらに原始的な生物で、およそ3億年前からそのままの形で生息しているため、生きている化石と呼ばれています!
そのため、図鑑などの扱いでは無顎類は魚類の中に含まれていますが、一部の研究者の間ではあまりにも分類が違う上に原始的な生き物のため、魚類とは引き離して考えようとする方もいるようです。
ヌタウナギは顎を持たないため、他の魚類のように口を縦に開閉することはなく、驚くことに左右に開くようになっているんです!
どこに口があるのかと思っていたらこんなところに、、、ホラー映画に出てきそうな見た目ですね
口には歯舌という鋭い歯が縦に並んでおり、目は退化して皮膚の下に埋まっています。
また、頭部や、鼻孔、口の中やひげには、味や匂いを感じ取る味蕾(みらい)にも似た器官であるシュライナー器官を持っており、嗅覚や味覚が優れています。
これだけでもヌタウナギは充分不思議な生き物なのですが、彼らの驚くべき特徴はこれだけではありません。
驚くことにヌタウナギには心臓が4つあるんです!
ヌタウナギは脊椎動物の中でも血圧が最も低く、一つの心臓では全身に酸素をうまく送れないため、身体中に血液を送り出すポンプの役割を果たす心臓を4つ持つことで全身に酸素を送っているんです!
また、体の左右には頭部から尾にかけてムチンと呼ばれる大量の粘液を出す粘液孔を持っており、身を守るために使われたりします。
鰓孔にも似ているが鰓孔よりもうっすらとしています
身体中からムチンを出して身を守っている様子。これを見ると誰もがドン引きするはずです(笑)
名前の由来
目が退化していてほとんど見えないことから元々はメクラウナギと呼ばれていましたが、メクラという言葉が視覚障害のことを指し、差別的な意味を持つため不適切であるとされて今のヌタウナギに改名されました。
魚からすれば名前なんてどうでもでいいしょうが、魚に対しても人に対しても失礼ですし、正直改名される前の名前をつけた人のセンスと人間性を疑いますね(笑)
私なら真っ先にヌタウナギの出すムチンの方に注目して名前をつけます!
ヌタウナギ以外にもこのように差別的な名前が付けられていた魚が意外にいるのですが、時代とともに改名されています。
ちなみにヌタウナギのヌタとはヌタウナギの出す粘液のことで、皮膚から大量の粘液を出してぬるぬるすることからこの名がついており、ヌタウナギの粘液孔のことをヌタ腺と呼ぶこともあります!
また、この特徴から英名ではスライムイールと呼ばれており、その見た目を不気味と感じ取る人もいたため魔女の意味を持つ、ハグフィッシュとも呼ばれています。
生態
・エイリアンのような見た目には理由がある
水深740メートル以浅の砂泥質の環境で生活しており、ゴカイの仲間や上から落ちてくるクジラなどの動物の死肉を食べて生活しています。
ヌタウナギは目が退化していて、皮膚の下に埋もれているためほとんど何も見えていないのですが、目の神経はしっかり繋がっているため光は感じ取ることができます!
そのため昼と夜の区別はつくそうです。
また、血圧が低いことにより運動能力もそこまで高くないため昼間は岩の隙間や泥の中に穴を掘ってじっとしており、夜になると餌を求めて活発に動き出します。
餌の少ない深海で生きる生き物たちからすれば時折上から沈んでくるクジラなどの大型の生き物の死骸はご馳走で、実際に動物の死骸が降ってくるとヌタウナギはどこからともなく真っ先に集まってきます。
ヌタウナギは目が退化している代わりに嗅覚と味覚が発達しており、ヒゲや顔の周りにあるシュライナー器官を使って餌の居場所を探し、餌を見つけると口を広げて顔を餌にめり込ませるようにして鋭い歯舌で削り取るようにして捕食します!
この口を広げた姿はまさにエイリアンのようです!
ちなみにシュライナー器官が顔の周りに集中しているのは顔をめり込ませるようにして餌を食べる習性があるからだと言われています。
クジラの死骸を見つけると肉の中に潜り込んで食べるぐらい餌に対して貪欲です!
また、ヌタウナギを初めて見る方は顔の中央に空いた穴を口だと勘違いしてしまいそうですが、この部分は鼻腔でここから泥ごと水を吸って獲物の匂いを嗅ぎ分けたりするのに役立ち、吸い上げた泥はお腹側にある鰓孔から吐き出します。
・繁殖
ヌタウナギの産卵期は8〜10月で、その時期になると浅場から深場に向かって移動して産卵を行います。
ヌタウナギの卵は細長いラグビーボールのような形をしており、一度に18〜30個ほど産みます。
卵には海流に流されたりしないように岩などにくっつくための粘着糸が備わっており、マジックテープのように卵同士でくっつきます。
卵同士で固まって岩などにくっつくことで生き残る確率をあげています
・過酷な環境をネバネバで生き抜く
ヌタウナギは敵に襲われたり、獲物を狩る際には身体中からムチンと呼ばれる細かい繊維質のタンパク性の粘液を分泌します。
これは海水と混ぜることでゲル状になり、ヌタウナギは弱った相手の口の中に顔を突っ込んでムチンを出すことによって相手の鰓孔を詰まらせて窒息させて仕留めてしまうんです!
なんと恐ろしい技を持っているんだ、、、
逆にサメなどに襲われた時も全身の粘液孔からムチンを出して撃退します。
しかも一度に出す量が半端じゃなく、一度にヌタウナギ自身を包み込んでしまうほどの量を出し、大きなバケツなどに入れておくと中がスライムのようになってしまいます。
そのため漁で網にかかってしまうと他の魚が窒息して死んでしまったりして、他の魚を食べることもあるので漁師さんの間では嫌われちゃってたりします。
またアメリカでは、アジアに食用として輸送するために大量のヌタウナギを乗せて走っていたトラックが転倒して、中のヌタウナギが海水ごと外へ飛び出て路面を覆い尽くすほどのムチンを出したことにより、後ろを走っていた4台の車がスリップするという珍しい事故も起きています。
車をもスリップさせるほどの粘液、凄すぎます!
・意外と器用なヌタウナギ
そんな厄介とも思われるヌタウナギの粘液なのですが、やはりヌタウナギにとっても鬱陶しいと思うこともあるようで、粘液を出しすぎて自分に纏わりついた時には硬骨のない柔軟な体を器用に固結びして、結び目を解く動作で纏わりついた粘液を少しづつずらしていって落とすことができます!
自分の体を固結びするなんてどういうこと?となりますが、言葉通りの意味で器用にくねくね動いてほんとに結び目を作っちゃうんです!!
この技は敵に噛みつかれたりした時も応用するようで、自分の体を相手の口から少しづつずらして逃げるようです。
・実は私たちの生活にも役立つヌタウナギ
ヌタウナギの出すムチンという物質は、細かい繊維質になっているためその強度はクモの出す糸と同じくらいあり、服の生地に使われるナイロンの10倍の強度なんだそうです!
そのためこの繊維を服などで利用できないかと研究もされています!
ちなみにこのムチンは私たちの鼻水にも含まれているんですよ?つまりヌタウナギの体からは、、ちょっと考えたくないですね。
釣り糸と釣り針にまとわりついたムチンは膜状に広がっており、結構伸縮性があります。
また、ヌタウナギの皮は防水性があるらしく、韓国では財布などに加工されて販売されています!
もし韓国へ旅行に行った際には探してみてください!
魚食
味:★★★☆☆(調理に手間がかかる)
身の種類:白身
そのグロテスクすぎる見た目から「これ食べれるの?」と疑問に思いますが実は美味しいんです!
個人的には天ぷらや唐揚げで食べるのが最も美味しいです!
食感は魚のそれとは全く異なり、タコやホルモンのようにコリコリとしています。
一応白身魚なのですが、味は白身魚のあっさりとはまた違う、なんとも言い難い塩気のあるあっさりした味がします。
白身だからそりゃあっさりしてるでしょうと言われるかもしれませんがあの味を上手いこと表現できませんでした、食レポできないので(笑)
ただ、美味しいということは絶対保証します!
正体を明かされずに出されると、「これがあのヌタウナギなの?!」と思うほど普通に美味しいです!
というかそもそも魚かどうかも分からず、ホルモンと勘違いすることもあるかと思います。(笑)
ぱっと見魚の天ぷらとはわからないですよね(笑)
刺身にしても美味しいのですが、噛みごたえがありすぎて少し硬いのであまりお勧めはしません、。
見た目はサーモンの刺身の色を薄くしたようですが、食感は少し硬いです
ヌタウナギは日本ではあまり流通はしていませんが、韓国では食用としてお店などでも出回っており、煮付けや炒め物、蒲焼などで食べることができるそうです!
私も次回は蒲焼で食べてみたい!と思うのですが、ヌタウナギを食べる際の重大な欠点があることを忘れていました、、。
とにかく下処理が面倒なんです(笑)
初めは洗っても何をしてもムチンが出続けるのでこの作業には終わりが来るのかと思ってしまいます。
その後、一段楽ついて皮を剥いたら剥き出しになった粘液孔から再びムチンが分泌されるので厄介です。
ただそれさえなんとかなれば、体に硬骨はないので他の作業は非常にスムーズになります!
ムチンによって排水管が詰まる可能性もあるので、もし調理することがある方はお気をつけて(笑)